0.3%の雑文[014]
あの娘可愛いやカンカン娘  ――ステキな天声人語1

 最近はあまり面白くないので読み飛ばしてしまうことの多い「天声人語」(面白い、というのはいい意味でも悪い意味でも、なわけだが)。一時期は、入試問題に使われるとか、就職試験でその朝の「天声人語」について訊かれるとか、いろいろ取りざたされていたが、最近はどうなんだろう。まあなんといっても、いま日本でいちばん読まれているコラムのひとつであることは間違いないだろう。
 
 で、今朝(2005.6.6)の「天声人語」である。
 いや、笑ったわらった。テーマは「ミュール(のたてる騒音)」だ。以下、適宜引用。当然のことながら強調してるのは引用者である俺。

 

 ことしも「カスタネットの季節」がやってきた。カッカッ、カッカッ。陽気に誘われるように、駅の階段や下りエスカレーターで、よく聞こえてくる。手のひらでなく、女性たちが足元で鳴らす。そう、あのわざと響かせているような靴音

 と、コラムははじまる。ようやく取り上げたというべきか、いよいよミュール流行も終わりか、という感じだな。朝日がさわったから、アウト、みたいな。
 ま、それはいいんだ。俺じしん、あの音と一緒に馬鹿さをふりまいているミュールにはかねがねイヤな気分にさせられていたのだ。ファッションだの流行だのにはうとい俺であっても、あのうるささには辟易していた。
 しかし全国何百万の読者をかかえる朝日だから、まずはその説明からしないといけない。

▼涼しくて、デザインもかわいい、ミュールという突っかけが音源である。歩くたびに、いったん浮いたかかとが、着地する際にヒール部分を地面に打ちつけて鳴る。歩く姿勢や速さ、体重、ヒールの高さ、細さによって、音は高くも低くもなる

 突っかけだ。よく言った。そしてわざわざ音が発生するメカニズムまで説明してくれている。いたれりつくせりだ。しかし、あの音をしっている人間であれば説明されなくてもわかるだろうし(なにしろ階段であの音がすると、みんな視線はそちらを向くのだから)、見たことも聞いたこともない人にとっては、こんな説明されてもなにがなんだかわからないと思うがどうか。むしろ「下駄をカランコロン鳴らして歩く音が、甲高くなったような」ぐらいの説明のほうがわかりやすいのでは。
 それにいろんな音が出るなんてことはいらんでしょう。「姿勢がだらしなく、知性があまりない人間が履いて歩くと、盛大な音がうまれる」ぐらいキツいこと書いてやれよおっさん。
 まあそんなことはどうでもいいが。

▼いかに履きやすくても、本人もうるさかろう。あまりに傍若無人ではないのか。こんなオヤジの小言を口にしたら、同僚が教えてくれた。彼女たちは「カスタネット娘」とか「カンカン女」と呼ばれているのだ、と

 どういう同僚だよ。というかおなじみ「試写室」もそうだが、最近の朝日はやたらと記者の個人情報(自己顕示ともいう)をたれながしてないか?

▼名前がつくほど広がったからだろう、あの音を防ぐ商品がよく売れている。かかとの部分に張る両面テープ状の敷物で足の裏が靴底から離れない。いわば、カスタネットを閉じておく仕掛けだ

 つまり、同僚の話は、「それがもう一般的に広く知られていることなんですよ」という証拠なりアリバイなわけですね。まあ「ミュール 音 迷惑」でGoogle検索すると5000件以上ヒットしますからね(ちなみに、そのなかの「大手小町」という読売新聞系の投稿サイトで“しかもバッタンバッタン、うるさすぎる。”“下りのエスカレータだけは歩いて降りないでください! 金属音がこの上なく激しく響きます。”という発言があったのは02年7月と8月。3年前から「うるさい」と言われていたわけです。もっと古いデータだと、築地場外市場のリレー日記に、“足下を飾るんだか音を出すために履いているのか知らないが名前を『ミュール』と言う物体が、階段の石に当たり『カン』と言う甲高い音をがなり立てる。”という傑作な文章は2000年8月25日付(ぜひ読んで!)。
 5年ないし3年ぐらい前から、うるさいねえイヤだねえという話はあったんですが、ようやく今年から朝日も認める全国区的迷惑に認定されたってことですかな。この筆者も、もうちょっと駅で注意していれば、携帯やステレオ音以外にもうるさいものがあるって気づいただろうになあ。
 そして両面テープ。見たことねえよ。いやそんな女性のかかとばっかり見てるわけじゃありませんけどね、それにしたって、足の裏にそんなもん貼ってまでして履きたいものなのか。

▼2年前から売り出した静岡市のメーカーの場合、27歳の女性社員のアイデアだった。ミュールでも走りたいと考案したら、防音効果も大きかった。いま特許出願中だ。今春から別の会社も参入している。靴の騒音は改善されるかもしれない

 ちょ、ちょっと待て。若手女性社員のアイディアが、カンカンうるさい音を軽減する商品を産み出すきっかけになった、えらいなあすごいなあ、と、そういうこと? このコラムの論旨はそれ?
 その27歳が「ミュールでも走りたい」と思ったってのはスルーなの? ノープロブレムなの?
 そもそもサンダルだのミュールだののたぐいは、それを履いて走るものじゃないでしょう。室内履きなのか外履きなのかもよくわからない俺だけど、かかとを固定する機能がないわけだから、長距離を歩くことには向いていないだろうし(もちろん走るためのものでは絶対ない)、公共交通機関じゃなくて車(じぶんで運転するんじゃなくて、もちろん運転手つきでね)での移動のためのものだろうし、パーティ会場などで少し歩く時には男につかまって歩くべしみたいなものなんじゃないのか。だってスリッパだし(Zappos.comでは《Mule Slippers》と分類されている)。
 スリッパだろうが突っかけだろうがサンダルだろうがなんでもいいけど、馬鹿みたいにケンケンギャンギャン鳴らしながら歩いて恥ずかしくないんだろうか。なんて、俺もすっかりオヤジの仲間だな。

 ま、そんなわけで、今朝の「天声人語」については、微妙に、あるいは大々的に、ピントがずれてるところはあるとはいえ、とりあえず、あれはうるさい、ということを大々的に発表してくれたのでよしとしようと思ったのだった。両面テープでかかとをくっつける方法(それがカッコイイかカッコワルイかは別にして)も提示したというところも評価したい。
 が、最終段落を読んで、やっぱり脱力したのであった。

そう思って列車内を見渡すと、大声で話す「ケータイ君」もヘッドホンをつけた「シャカシャカ虫」も減った気がした。ほっとした気分で降りようとしたら、ドアの前で動かない男性がいた。まるで「お地蔵さん」だ。静かでも、乗り降りの邪魔だってば。(朝日新聞/2005年6月6日朝刊「天声人語」より)

 なんだなんだ。結局またしてもごく平均的な“公共マナー(騒音部門)”にもってくわけか。大声で話す携帯野郎(特にオヤジが増えてる気がする。若者はメールで用を済ませてるのでは)は相変わらずいるし、ヘッドホンステレオからの音漏れがひどい連中もいる。だいたい「列車内」ってどこの列車だよ。旅でもしていたのか。
 だいたい「そう思って」ってそれまでの段落はなんだったんだ。つながりが全然ないじゃないか。「そう思って」の「そう」は「靴の騒音は改善されるかもしれない」なんでしょうか。
 そしてとどめの最終センテンス。「ってば」。手羽だよ手羽。雑誌のカジュアルコラムふうを目指しているのか。目指すなら目指すでいいけど、だったら徹頭徹尾それでやってみてくれよ。

 ことしも「カスタネットの季節」到来。駅の階段や下りエスカレーターで、女が足元でカンカン鳴らす、ばかみたいな靴音だ▼なにしろうるさい。音のほうを見やると、やや猫背気味になり、ひざを突きだして階段をだらしなく降りていく女。「転べ」と念を送るがそんなものはダラシナバリアがはじき返す。みっともねえ、だせえ、かっこわりい、そんな周囲の視線はまったく気にならないようだ。さすがだなカンカン娘▼…………

(ステキ度 ★★★)

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(2005.6.7)

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