6月28日の「朝日新聞」朝刊には別刷り特集ってのがついておりました。「be Extra BOOKS」と1面左肩にありますから、いわゆる読書案内ですな。1〜3面は大沢在昌、京極夏彦、宮部みゆきの鼎談、5面はその3人が勧める本、6〜7面は書店員のお勧め本、4面・8面は広告、という構成。
出版不況といわれ、小規模書店もどんどん減っているというし、読書案内特集はいいことだ、と思う。
思うがしかし。
1面の、一番大きな見出しを見て、俺は目を疑ったね。すごくいやな気分になった。なにしろ3センチ四方ぐらいの活字だからインパクトは大きい。
エンタメ小説 三昧
えんため? 昔の漫才師か。アチャコはどうした。
どうやらこれは《エンターテインメント小説》のことらしい(リードではそう書いている。鼎談でもそう表記されている)。
エンタメ……気持ちの悪い言葉だ。肥溜めのような響きすらする。
日本語には《娯楽小説》《大衆小説》という言葉がある。カタカナ語がよければ《エンターテインメント小説》だっていい(ちょっと長いが)。
なんでもかんでもカタカナにして、さらにそれをお得意の四文字語に省略する。セクハラ、パワハラ、パラパラ(これはちがうか)……。
そういうのってもうやめにしないか。
6-7面だってそうだ。サブタイトルは《書店員が選ぶエンタメ本》である。やれやれ、だ。なぜ書店員が選ぶ娯楽小説、じゃいけないんだ? かっこわるいのか? 古くさいのか? ダサいのか?
エンタメのほうが数万倍、ダサいと思う。俺はね。
しかしまあすでに世間では市民権を得ているようですな。読売新聞のサイトでも堂々と「エンタメ」っていってるし。なにかと組み合わせて「○○のエンターテインメント」を「○○タメ」と略したりもしているようだ(「橋本市のエンターテインメント→ハシタメ」のように)。
おおいやだいやだ。
いやだけれども、もう人口に膾炙してしまっているのだなあ。こんな些細なことで、日本語が乱れてるとか文化が破壊されているとかいうつもりはないが(だいたい俺自身、そんなたいそうな日本語をつかっているわけではないし)、このやり場のない「イヤ感」を吐き出したかった次第です。
サッカー以外の記事があってちょっとうれしい。
わかるよ、うん。そのイヤさかげん。
エンタメも専門家同士や業界の人同士などが使う符丁のような言葉なのかもしれないそもそも。そんなのを一般人が聞きかじり、通ぶって用いる。すし屋で客がギョクとかシンコと言ったり、バーでむっさい男がチェイサーだとか言うのに似ている。いやしくも言葉を扱うメディアが堂々と“逆輸入”してデカい活字でやっちゃっちゃあオシメエヨ。
うはは、まあね、四年に一度のことなので勘弁してつかあさい>サッカー。
で、四字略語。
業界用語でも玄人用語でも、そういうのが一般化すること自体は別に目くじら立てるつもりはないんですよ。ですが、やはり「カタカナの頭2字ずつとって計4字」という安易さと、言葉の響きの汚さが耐え難い。酒関連でいえば、ドンペリとかね。すごい不味そうじゃないですか。ドン・ペリニヨンと言ったり書いたりするのがそんなに面倒なのかと。ウォトニとかジンリキとかジャクローとかバナダイとか言われたら、飲みたいと思えない。
エンタテインメントをエンタテではなくエンタメと略してしまう感覚(むろんどちらもイヤですが)もよくわかんないし。entertain+mentなのだから、ただしく略するならばエンメンではないのかと。いや、いっそエテメンでもいいが。イケメンみたいで。猿面っぽいところがまたよいです。