March 06, 2005

正しい保健体育

みうらじゅん『正しい保健体育』(理論社/よりみちパン!セ 1200円)

 2004.12.20初版。2004年の暮れからはじまった、理論社の“中学生以上すべての人の”という但し書きがついている叢書《よりみちパン!セ》の第1回配本分のうちの1冊。同時刊行はほかに重松清、白川静、森達也、伏見憲明。ヤングアダルト新書とも表示されているので、要するに中高生向けの人生読本(それもかなりカジュアルな――岩波ジュニア新書とは一線を画すような)みたいなもんなんだろう。
 いずれにせよ、みうらじゅんじゃなければ手に取らなかっただろうけれど、取ってしまった。読んでしまった。大笑いしてしまった。
 こんなんガキに読ませていいのかよ。真面目な少年少女は読んじゃダメだ。真面目な大人も読んじゃダメだ(Amazonのカスタマーレビューには《内容は安心して子供に見せられるものではありません。/下ネタばかりです。》なんてこと書いちゃってるかわいそうな“大人”さんがいらっしゃいますが……)。しかし傑作だ。
 じつに正しい性教育および大人教育の教科書なんだけれど、これは教育委員会には絶対採用されないわな。採用されたとしても正しく教えられる教師もいないだろうし。
 でも書かれていることはしごく真っ当。不足があるとすれば同性愛などの一般的ではない(という言い方がまずければ、マイナーな)性的嗜好について書かれていないことぐらいか。ま、そんなに盛り込んでもしょうがないけど。だいたい男子向きというのも、女子にとっては不満があるかもしれない。でもまあ煩悩でいっぱいになってる思春期男子に特化したことで、この本は価値を高めているとも言える。だから女子は、ああ、男子は馬鹿だ馬鹿だと思っていたけどやっぱり馬鹿だったんだな、と確認するつもりで読むのがよろしい。


 だいたい前半の、いわゆる性教育的部分に注目が集まるだろうと思うのだが、むしろ特筆すべきは後半だと思う。「第3部 生涯を通しての健康」のうちの「第3章 家庭生活と健康」「第4章 加齢と健康」のあたり(「第2章 金玉と包茎」なども魅力的なタイトルではあるけれどね)。ふざけて書いてあるようでいて(いやそりゃ当然ふざけてるんだろうけど)、けっこう鋭いところを突いている。
 残念なお知らせをしなくてはならないのですが、セックスとは何のためにやるかと言いますと、実は「子供を作るため」なのです。衝撃の事実なので教えていいものなのかどうか悩みましたが、これは本当です。(「2)結婚の意義」p.108)
 そう。中学生ぐらいの、性に目覚めたばかりの連中にとっては衝撃的だよなあ。そのくせ、保健体育でこうは教えない。仕組みは教えるが、目的は教えない。
 子供というのは現代美術です。もちろんそれはちっともかわいくないのです。確実に他人の子供はかわいくない。(略)  でも「ぶさいくだ」「気持ち悪い」なんて本当のことを言ってしまっては、友情としてすべてがおしまいになってしまいます。そこでいいところを見つけて、がんばって「子ほめ」をしなくてはならないのです。(「4)友人の妊娠がわかったら」p.113)
 いやほんとにねえ(笑)。
 同様に、お金もないのにやたら子供を作ってはいけません。まわりのみんなが作ったから、ついついフィギュア感覚で作ってしまいがちですけど、そのマイフィギュア感覚はやめなくてはなりません。(「6)父親と母親の役割」p.120)
 昨今よく「友達のような親子」という言葉を聞きますが、気持ち悪いにもほどがありますよね。(略)子供と秘密結社のような関係を結びたい親は、ときに子供の座をねらっていたりします。(略)  それで大人になったときに、「すきあらば自分はこれから子供になろう」と思っているわけです。(「7)つまらない「いい親」にならないために」p.121)
 この二つは強烈だ。現実に、子供を出汁にして責任を逃れようとする親、自分の欲望に基づく都合を優先する親(そこに子供のためという包装がなされるわけだが)がなんと多いことか。  もう引用しはじめるときりがない。しかし第3部第3章、第4章(正しい老い方惚け方が書かれている)は、おとなが読まなくてはならない章だ。特に頭の堅い人と頭の幼い人にお勧めしたい。

 関係ないが、この本のCコード(日本図書コード)は「C0330」。普通に読む小説は「C0093」、エッセイは「C0095」という具合に分類されているのだが、C0330なんてあまり見かけない。
 なんだろうと思って検索してみたら佐藤正午のサイトをやってる方のページにたどりついてしまった。【参考:日本図書コードの仕組み分類コード
 コードは販売対象、発行形態、分類(2桁)の計4桁からなり、C0330は「一般向け-新書-社会科学総記」ということになる。販売対象は「一般」。けっして「6 学参I (小・中学生対象)」や「7 学参II(高校生対象)」ではないのである。ヤングアダルト向けの皮をかぶった大人向けだ。読んでみて、損はあるまい。なんか懐かしいし(笑)。

投稿者 percent : March 6, 2005 03:38 AM | トラックバック (3)
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コメント

トラバありがとうございます。
こちらのページ、かなり面白い記事が多いとお見受けしましたので、ちょくちょく覗かせて&たまにはコメントもさせていただきますね。
さて、この本、ふざけているようでいて、結構鋭いところをついているという印象は相当あります。
特にそれを思ったのが、「子供を育てるということの向き不向き」というくだり。よくぞ言ってくださった、という気分がしています。
昔から私、子供を育てるのに向かない人って絶対いるって思ってましたので(自分を含めて)。それなのに周囲は、「いや、子供が出来たら変わるもんだよ」とかなんとか言って、二言目には「お子さんはまだ?」と。うんざりしていたところだったんです。

Posted by: テングーとんまつり : March 6, 2005 10:33 AM

テングーとんまつり様。

コメントありがとうございました。

この本のすごいところは、ご指摘のとおり、おふざけと鋭い考察の同居、というところだと思います。おふざけ部分だけが注目されがちのようではありますが(それはそれで販売戦略として正しいのですが)、それに騙されて(笑)みうら思想に毒される人が増えることを切に祈っております。
エントリーの本文では紹介しませんでしたが、高齢化社会に関するくだりも、いいですよね。

>> 高齢者になってから「生きがい」を探しても遅いのです。
>>生まれたときから余生は始まっています。現在の高齢者社
>>会の問題は、高齢者が増えていることではなく、自分塾を
>>開催してこなかった高齢者が多すぎるということなのです。(p.136)

すばらしー。まったくもって、ただしい高齢者になりたいものです。

今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by: ぱと : March 6, 2005 03:00 PM

「よりみちパン!セ」第一回配本のご紹介を
ありがとうございます。
ご推薦の、みうらじゅん『正しい保健体育』と
もう一冊、森達也『いのちの食べかた』にトライ。

2003・の森氏の作品「ベトナムから来た
もう一人のラストエンペラー」が嗜好に合った、
真面目な大人です。


Posted by: メジロ : March 7, 2005 02:41 PM

メジロさま。

まいどどうも!
しかし「正しい保健体育」と「いのちの食べかた」とは、硬軟とりそろえましたね。
真面目はほどほどにしないと、身体に悪いですよん(笑)。

Posted by: ぱと : March 8, 2005 01:57 AM
まあ気楽にコメントしてくれたまえ。もうしわけないが、スパムが多すぎなのでコメントは管理者の承認後、掲載される。まあ気長に待ってくれたまえ。









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