January 13, 2005

読まれたうえに聞かされる

「読み聞かせ」という言葉が嫌いだ。
その行為自体は別にどうでもいい。何を目的にしているのかもよく知らない。情操教育なのか国語教育なのか読書に親しませるためなのか、そのへんもよくわからない。興味ないし。
だいたい、子供の頃に「絵本」を読んでもらったかというと、あんまりそうでもないような気がする。どっちかっていうと口承ですな。暗くした状態で、適当に話を省略されたりして文句いったりしながらも、いつのまにか寝ているという。それは「寝かしつけ」か。しかし寝かしつけるときに「まだらの紐」の話をする親というのはいかがなものか。カーテンの紐がこわくて眠れなかったですよ俺は。寝たけど。

絵本は好きでしたが、じゃあ日中、いっぱい「読み聞かせ」られてたかというと、そうでもないらしい。勝手に読んでたんだそうだ。読んでもらっても、ページを飛ばしたりすると指摘していたらしいので(イヤなガキだねまったく)、自分で読むほうが楽しかったのだろう。
そんなふうでも、国語は得意だったしやめろというほど本は読んだし今でも本に埋もれながら生活しているので、「読み聞かせ」ようがなにしようが、国語の成績や読書傾向にはあんまり関係ないんだろうなあと思う。
どっちかっていうと、お父さんお母さんが日頃、自分の趣味として本を読んでいるかどうかのほうが重要だと思いますよ。



ってそんなことはどうでもよくて、言葉としての「読み聞かせ」だ。
なんでイヤかというと、エラそうだから。「絵本を読む」「読んであげる」「子供と一緒に読む」という普通の言いかたでなく、「読み聞かせ」だよ読み聞かせ。子供は「読まれ聞かされ」。もういいって言ってんのに、無理矢理なにかを食わされてるような感じだ。あるいはフォアグラ用のガチョウに餌を詰め込むような。
これを読む→子供の耳に流し込んで脳に到着する→子供は知識を吸収する→賢くなる
これを読む→子供の耳に流し込んで脳に到着する→子供に感動を与える→情緒豊かな子になる
どうもそういう、原料入れると製品が出てくるかステキな機械を夢想してんじゃねえのか、と言いたくなるような言葉なのである。

でもまあGoogleで34万件もヒットするんですね。すっかり普通の言葉になってるようだ。なにしろ青森県には読み聞かせ活動支援センターってのがあるくらいだからなあ。
さらに、財団法人出版文化産業振興財団っていうところ(ここは「読みきかせの輪」を広げておるんじゃが、これまた《人材の育成とネットワーク作りとして、「JPIC読書アドバイザー養成講座」「JPIC読みきかせサポーター講習会」を開催》してたりして、本の雑誌の日本読書公社みたいで笑える)では、「この本読んで!」という《わくわく"読みきかせ"マガジン》を刊行してらっしゃる。すげえ……。「わくわく」も「マガジン」も普通だけど、そこに「読みきかせ」がくっつくと途端にうさんくさくなる。

なんで「読み聞かせ」なんだろう。というかイヤな感じを受けないのか、みんな。「言い聞かせる」という動詞と似ているせいかなあ。言い聞かせる、は、

目下のまたは劣位にある相手に、事のわけを納得させようと、よく説明して教える。言って聞かせる。 多くは相手の行動や考え方を非とする場合に言う。「岩波国語辞典第六版」

なわけで、そこに含まれる「目下」「劣位」「非とする」みたいな印象を、「読み聞かせ」にも感じてしまうのか。ちなみに「読み聞かせる」は「岩波国語辞典」にはなくて、研究社の「新英和・和英中辞典」だと単に“read 《a book》 to〜”なので、意味ねえっす。
そんなこというなら、じゃあなんて言えばいいのさ、と言われるかもしれない。
わかりません。ただ、「読み聞かせ」という名詞形はイヤだというだけ。「読み」でいいじゃねえか「読み」で。聞かせるところまでいれるから傲慢な感じがするんだ。読むのは読み手の自由。でも聞くのは聞き手の自由ではないか。つまらなかったら聞かなくていい。そういう「ゆとり」を残しておいてほしいのだ。ゆとり教育には批判的なくせに(笑)。

なんで「読み聞かせ」をやり玉に上げてるのかというと……今、原文がみつからなくて非常にくやしい。明日もういちど探そう。
伊藤忠が絵本をDVD化して売り出すらしいのだが、親に代わって「自動読み聞かせ」というのが売りだ、という記事があったんです。
なにそれ、と。そもそもそれは「読み聞かせ」といえるのか。テレビとDVDプレイヤーがあれば、そこに子供を釘づけにしておけるってことなんだろうか。親は、声も出さず、本を持つことさえしないで済み、アニメやらなんとか戦隊やらを見せているという罪悪感も感じずに済んで、めでたしめでたしなのか。
伊藤忠のこの試み、成功するのかどうかわからんが、売れたら――すなわち、DVDを見せることが「読み聞かせ」の代替たりうると考える親が多いのだとすれば――「読み聞かせ」行為そのものも(その名称以上に)馬鹿げてるってことだと思いますです。はい。

投稿者 percent : January 13, 2005 03:48 AM | トラックバック (0)
コメント
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