0.3%の雑文[015]
甘えるのもいいかげんにしろ  ――ステキな主張5

 そしてまた、あらたなるステキ投稿が波紋を投げかけた。
 それは6月18日のこと。青森に住む50歳の女性が、朝日新聞「声」欄にこんな投稿をしたのであった。

子をしかる時
正しい理由を


会社員 ○○ ☆☆美
(青森市 50歳)

 彼女はパン屋で衝撃的な光景を目撃した。

 焼きたてを並べて売っているパン屋さんでの光景。母親と5歳ぐらいの子どもが共にトング(はさみ具)を持ち、店内に並んだパンを選んでいた。

 トングに「(はさみ具)」と注釈をつけくわえたのは彼女自身だったのか、それとも親切な朝日新聞の担当記者であったのか、それはわからない。だけどどうにも間抜けな語感である。はさみぐ。
 まあそれはいい。
 トングを与えられた幼児はパンをそれでさわり、母親は口でやめろと言うばかりだった。投稿者は腹に据えかね、ついに、

「口で言ってないで、やめさせなさい」

 と注意する。母親の反応は、

「おばさんにしかられるからやめなさい」

 昔から続いている《誰それに叱られるからやめろ》攻撃だ。以前も、バスの車内でふざけていた幼児を、母親が運転手さんに叱られるからやめなさいといったという事例がレポートされていたような気がする。そのときは運転手が「別に私は叱りませんよ、けがをして困るのは誰なのかちゃんと教えてやればどうですか」というようなナイスな返しをお見舞いし乗客一同溜飲を下げた、ってな話だった。記憶はおぼろげだが、そんな話だったはずだ。
 この手のバカ親は絶えることがない。《運転手さんに叱られるから》《お店の人に怒られるから》《見ず知らずの口うるさいおばちゃんに叱られるから》《仮面ライダーに怒られるから》……とにかく親自身は、叱りたくないのよ坊やの好きなように振る舞わせてあげたいのよでも世間って冷たいものなのね仕方ないからやめなさい私の肩身が狭くなるからやめてちょうだい、ということなのであろう。
 これだけあちこちで顰蹙を買っているこの叱りかた(叱ってないわけですが)なのに、そんな知識も情報も持ち合わせていないようだ。いずれ子供が家庭内暴力でもしだしたときにはどうやって止めるのだろう。《世間の人に叱られるからやめて》とでもいうのだろうか。
 子供だってバカじゃない。親が本気になっているかどうかは本能的に察知する。なぜこれをしてはいけないのか、5歳にもなれば理解できるはずだ。それをしないで、他人に叱られるからという理由で止めようとするならば学習の機会を奪われた子供は、(そのあと死ぬまで彼/彼女が属していくであろう)社会のマナーを学ばないまま育つことになる。
 そんなガキがどうなろうと知ったことではないが、結果的にはそのガキが社会にとって迷惑な存在になるという、誰の得にもならないことになるのである。もしかするとその程度の想像力もない親が子供を産んで育てているのだろうか。おそろしやおそろしや。

 と、まあ、毎度だいたいそんな感想を持つことになる。世代論的なことまで敷衍すれば、最近の親の、さらに親世代が悪かったとかそんな話になることもある。まあ20代の親であろうと40代の親であろうと、まともな人間はまともだし、ダメ人間はダメなわけで、あまり世代論にもっていくのは得策とは思えないけれど。

 最近は少子化問題が旬なので、かどうかは知らないが、この投稿はこう結ばれている。

 少子化が深刻な社会問題になっている昨今、子どもは貴重な存在かも知れないが、何をやっても許されるということではないはず。子どもを持つ親として、きちんとした、しつけをしてもらいたい。
 そして、その子育てをしている世代を育てた我々の年代も、反省をしなくてはならないと感じた。

 50歳の投稿者は、一応少子化のことはわかってるのよ、私はダメ親の親世代だから私たちが悪いって言われるかもしれないわね、というような予防線を張っているように見える。蛇足だ。「事実とそれに対する感想」だけで充分。そんな一般的なことを言って問題をぼかしてどうしようというのか。

 そしてこの手の投稿には食いつきがいいのが当の親たちだ。3日後、こんな投稿が掲載される。

子育ての母に
温かい助言を

主婦 △谷 □恵
(仙台市青葉区 35歳)

 タイトルからして力が抜けてしまうが我慢して読んでみよう。この投稿者は8歳と5歳の二児の母だ。いきなり彼女はこんな擁護をする。

批判された子どものお母さんは、疲れていたのではないだろうか。

 なんじゃそりゃ。なんで疲れていたって思うんですか。というより、疲れているかどうかなんて関係あるのか? 疲れていれば子供がパンをつついていても放置上等なんでしょうか。むしろ親が「悪いことはすぐやめさせるという習慣」をもち、子供が「やめろといわれたらすぐやめる習慣」を身につけるほうが、親も子も周囲も、ストレスはたまらないんじゃないかと思うんですが。

 そしてこの人は、《子どもの行動を正していく作業》(ってつまり「しつけ」ですよね? なんでそんな回りくどく書くの?)にはエネルギーが必要だと訴える。

気になる親子を見かけたら、ほっとする言葉で助けて欲しい。つらくなる言葉をかけても逆効果だ。帰宅して「あなたのせいで怒られた」の一言も子どもに向けたくなる。

 おいおい。ほっとする言葉って? 助けてって? 逆効果って? 帰宅後に子供に言葉の暴力って?
 わけわかんないんですが。いや、まじで。じぶんの子供がなにか危険なことをしでかしそうなときでも、やさしく注意されたいのか。「あらあら道路に飛び出すと車に轢かれて痛い痛いになるわよ」とか。ほーら轢かれた。
 もしそれをアリとするなら、最低限、赤の他人であるおとなが話しかけてきたら、まずは黙ってきくってことができるようにしてあるんですよねえ。これだけ変質者がうろうろしている世の中で、ね。
 それとも、パン屋でパンをつつくぐらいのことでガミガミ言うなってか。
 違うと思うよ。些細なことがきちんと教えられないなら、重大なことを教えられるわけないと思うのだがどうだろう。パン屋でパンをおもちゃにすることと、道路に飛び出すこととでは、幼児にとっては大きな違いはない。「してはいけない」内容ではなく、親がダメと言ったらすみやかにやめる、ということが重要なのだ。5歳ぐらいならその程度のしつけがなされていて当然だと俺は思うね。
 さらにトンチンカンは続く。

 母親に手本を示していただけないか。「口で言ってないで、やめさせなさい」ではなく、「これは誰かが買うパンだから、触らない方がいいんだよ」と言った方が良いヒントになる。

 手本って……。なんか……根本的に違うだろ。母親が子供の手本にならなきゃだめだろ。「これは誰かが買うパンだから、触らない方がいいんだよ」は母親が子供に教えるべきことだろ。そこまで他人に頼らないと育てられないのか。生活できないのか。だったらそんな親は、親になるべきではなかった。
 なぜ、現実にパン屋で商品をつついて、場合によっては売り物にならないような損害を与えているのに「優しくしてね」などと言えるのか(最初の投書に出てきた母親がそう言ってるわけじゃないけどね。トンチンカンな擁護をしている35歳二児の母が言ってるんですけどね)。
 この人の甘えはすごいよ。

注意するにも、相手の心情を気にかけてほしい。正論であっても押しつけるのでは、善意とは受け取ってもらえない。

 善意で注意されてると思うのかおまえは。迷惑だから注意されてるという、基本的なことは思いつかんのか。どこであれ、他人に迷惑かけたらすぐやめるのが当然。子供が迷惑かけたらすぐやめさせるのが当然。そんなところから始めないとわからんのだろうか。わからんから投書してるんだろうけれど。

 少子化が深刻な中で、しつけの責任を親だけに求めるのではなく、社会全体で温かく見守っていこうとする意識が大切ではないか。

 出ました錦の御旗、少子化。甘えの切り札、社会全体。社会に頼る前に、まず自分の常識が社会で通用するかどうか、もう一度考えてみようよ。通用しないような一般常識しかない人は、それを身につけてから子供を作ってはどうか。そこまでひどくなってるんだと思うよ。一部だけの話だと思いたいけど、小学校の保護者のめちゃくちゃな要求が新聞の特集記事になるぐらいだから、微妙だ。

 子育て真っ最中の母親は模索しながら頑張っている。批判だけでなく、助け舟とヒントを出し、心が温かくなるようなコミュニケーションを計ってほしい。

 頼む。がんばってるから何をしても許されるという考え方は捨ててくれ。がんばっているかどうかが問題ではないということを理解してくれ。実際に我が子が悪いことをしていて、それを制御できていないということを認識してくれ。子供のしたことの責任は、とりあえず成年に達するまでは親に責任があるということを忘れないでくれ。
 心温まるコミュニケーションがほしければ、それをしてからだ。批判されたら、自分のどこが悪かったのか、とりあえず振り返って反省してくれ。ベビーカーでかかとを踏んだら、最初に謝ってくれ(痛いんだよ)。パン屋で子供がパンをいたずらするなら、最初からトングを渡さないでくれ。渡さないだろ普通。言うこときかせられないならなおさらだ。

 しかしそんなキツい、ある意味では非道な(俺はそうは思わないんだけどねー)意見が出てくるわけもなく……。

孤立させずに
社会で子育て

大学生 ☆藤 ◇恵
(埼玉県吉川市 44歳)

 44歳で大学生とはまた珍しい。

 3人の子供が成人し、小学校1年の末っ子を育てつつ、子育て支援のあり方をテーマに大学で学んでいます。それだけに「子をしかる時 正しい理由を」(18日)と「子育ての母に 温かい助言を」(21日)を興味深く読みました。

 ってことはこのかた四児の母ですか。すごいすごい。第3子と第4子のあいだがすごくあいてるんですね。大きなお世話か。とにかく少子化に歯止めをかけようとがんばっていらっしゃる、のかもしれない。さらに大学で子育て支援について勉強中。えらいなあ。
 で、話はさらにあさっての方向へ飛んでいきます。だいたいこのタイトルからして読めちゃいますが。
 彼女は最初の投書の状況を説明し、

いたずらをやめさせられないお母さんは、かつての私そのものです。

 あちゃあ。世のなかにはマトモな親はいねえのかよ。これもまた一つの日本の伝統ですか。

 そんな光景を見かけたら地域の大人、とりわけ子育て経験ずみのお母さんやおばさんが、適切にしかってやればよいのです。優しいまなざしで、言葉を選び、注意してあげればよいのです。それは後輩のお母さん応援にもつながります。

 子育てのベテランであり子育て支援を勉強している人にしては、ずいぶんとアレなご意見ですな。適切に叱る、ってそんな義理がどこにあるのか。だいたいマナー違反に気づきもしないような馬鹿親を叱ったところで、逆ギレされるのがオチですって。
 さらにつっこむならば、子育てをしたことのある「女性」が子育てをしている最中の「女性」をしかることによって支援――父親やおじさんの存在はどこに? おっさんたちは無関係? こういうところに、無意識に出るんだろうな。この人が大学で子育て支援を研究してるんだなんて大口叩かなければ、こんな揚げ足とらないのだけど。

 この人も前出の35歳と同じ、社会で地域でみんなでという発想。それはいいんだけどさ。

子育ての責務を母親に向ける社会のまなざしは変わりません。子育てを母親一人の肩に負わせず、地域のみんなで見守り、支えているという意識を育てることが、ますます大切になっています。

 大切になっています、って、あんたのレポートを読みたいわけじゃないんだけど。
 それはいいとして、はいはい《子育ての責務を母親に向ける社会》、《子育てを母親一人の肩に負わせず》、おっしゃるとおり。しかしその次の段階として一足飛びに地域や社会という前に、まず出てくるべきなのは「父親」じゃないのですかね。一人で産んだんならまだしも。しつけでも教育でも、まずは両親がなんとかすべき問題なんじゃないですかね。片親(っていうのも差別語なのかな。ひとり親家庭っていうんだっけ?)の場合、そりゃ適切な(行政レベルでの)サポートは必要でしょう。マクロ的な行政のケアはどんな子供にとっても必要なものだ。しかし、子供になにをしていいかしてはいけないかを教えるのは親の役目であることに変わりはないはず。そこまで放棄するなら、じゃあ親はなにをするんだって話です。
 叱らない(冗談かと思っていたらマジで「叱らない子育て」がブームらしいじゃないですか。どうなるんだか)、しつけない、わがまま放題、てな具合に育てて、子育てって大変なんです! 子供のいない人にはわからない! なんて言われてもな。そういうの「育てる」っていうのか。
 大変だということはあらかじめわかっていたことでしょうに。子供が小さいうちは、子供がいなかった頃には自由できた娯楽もできないようになる(赤ん坊を居酒屋につれてくバカ親、海外につれてくアホ親も増えているようですがね)。それは織り込み済みで子供を作ったんじゃなかったのか作るのが普通なんじゃないのか。その代わり、子供の成長を見るという、ある意味では人類最大の娯楽と幸福を享受するわけです。まあ娯楽だという意見は少ないかもしれないが、子供をもつ幸せを声高に訴える人は多いのできっとそうなのでしょう(あんまり大声で言われると、もしかしてつらいから? なんて邪推しちゃうんだが)。
 しかも多くの野生動物とは違って、人間の場合オスとメスのペアでユニットをつくって子供を育てることになっている。いよいよストレスがってことにでもなれば、一方が引き受けて、もう一方をしばし自由にさせてやることも可能です。今の社会でそんなことできるわけねえじゃねえかという声も聞こえてきそうですが、それはね、あなたがそういう社会を選んでいるってことでもある。口を開けて待っているだけでは餌は落ちてこないのですよ。

 しかしこの論争(というレベルではないが)はこれで終わっちゃうのかなあ。つまらんなあ。文句→抗議→フォローで終わりなんて、くだらないじゃないか。なんの提言にもならないじゃないか。馬鹿な親が「そうよね、社会が協力してくれなくちゃね」で納得して、「優しい言葉による助言以外は受けつけなくていいのよね」などという馬鹿のままだったら、子供の成長はおろか親の成長だってのぞめないじゃないか。

(馬鹿親および馬鹿先輩度 ★★★★☆)

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(2005.6.27)

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