0.3%の雑文[013]
ハーフ・ポーションともったいないおばけ  ――ステキな主張4

 すっかりテレビ欄にうつつを抜かしていたわけだが(4/28の夕刊ではテレビ欄担当記者の座談会まで出てましたよ。これはこれでツッコミどころがあったんだがタイミングを逸してしまった)、心のきれいな人たちが純粋な訴えかける「声」欄も見逃せない。
 まあ普段は、斜めに読んで、おー、なんか電波来てるな発してるなと思うだけで、あんまり近づかないようにしてるんですが、連休明けの9日、ちょっと目をひいた投稿があったのである。

少量メニュー
同じ価格なら


シェフ A津○○○
(東京都昭島市 54歳)

「子供にもいい、量半分の料理」(5日)を読んで、小さなレストランを経営している立場から、ご説明したいと思います。
 私の店では、お客様のご希望があれば「少量メニュー」を出しています。ただ、量が半分だから価格を7割にするというのは難しいのです。

 え、なになに? 今なんていった? と思わず聞き返したくなるようなインパクトのある出だしではないか。カタカナの肩書きというのもけっこう目立つしな。
 だいたい《「投書のタイトル」(日付)を読み、思うところがあったので……》、みたいな書き出しだとね、これはけっこうおいしいんですよ。長年の「声」ウォッチャーの勘。誰かの意見に対して、うんにゃそれは考え違いだお嬢さん、みたいな反論、もしくは賛同意見。これが醍醐味です。乳母車のときはけっこうつながったもんなあ。
 しかし、じゃあ俺はその5日の投稿を見逃したんじゃないか。ウキー。たしか先月の新聞は捨ててしまったはず。連休中の分はまだ押し入れにあるだろう。あとで確認するとして(これが見つからないと面白さは半減する)、とりあえずシェフの意見を聞こう。

 聞くまでもないか。5日の「声」に。子供用に量が半分で値段が7割ってのを出してくれよ、という意見がのったのでしょう。アホか。
 こういうのは《要望系》と分類すればいいか。こんな不便なことがあります、こんなトラブルがありました、だから改善してくれ、もっと優しくしてくれ、あたたかい目で見守ってくれ、同情するなら金をくれ、というパターンですね。乞食系といってもいい。  で、子供は大人用一人前は食べられません、残すのは地球にやさしくないです、量を半分にしたものを出してください選べるようにしてください。そこまではまあいい。私とて鬼ではない、小さな子供に「出されたもんは全部残さず食え食い終わるまで帰さんぞ」とは言わない(いやべつに俺、レストラン経営者じゃないけど)。
 問題はその次だ。7割? 7割って70%? その数字はどこから来たのか。1500円の皿の中身半分にして1050円にしろってか。すごいな。
 よく行く焼き肉屋でね、さんざっぱら肉食ったあとで、もう腹いっぱいですぅ、ビビンバは無理ですぅ、でもちょっとだけ冷麺食べたいなっ(うふっ)、みたいなときあるじゃないですかあ(語尾あげ)、じゃない、あるんですわ、たまにね。そうしますとね、冷麺半人前で、というとその量で作ってくれるんですよ、そこ。うれしい。
 で、もちろんそれはふつうの冷麺の値段です。ハーフ・ポーションだろうと、当然フル・ポーションの料金を払います。つうか半額だの7がけだのという発想がなかったよ。
 彼女の論旨はあとにまとめるとして、わたくしは昭島のシェフの意見に100%賛成。
 じゃあそのもととなった、5日の投書にはどんな馬鹿なことが書かれているのか、もちろんチェックしましたとも。

子供にもいい
量半分の料理


デザイナー K岡◆◆
(さいたま市緑区 38歳)

「あるといいな、少量メニュー」(4月29日)を読んで長男の小さい頃の外食を思い出しました。

 うわっ、さらに前のがあったのかよ。もうないよ29日の新聞。ちきしょー。

 たまには外で食事を楽しみたい。けれどファミリーレストランで子供が食べきれる量のメニューは、お子さまランチがほとんど。その内容は、エビフライにスパゲティナポリタン、ハンバーグ、オムライスといった油っこいものばかりで、あっさり系を好む長男には不評でした。

 は、はあ? 《あっさり系を好む長男には不評》なんですかそうですか。って、おい、待て。だったら最初からファミレスに行かなければいいんじゃないのか? わざわざ《ファミレス》に行って、《子供が食べきれる》からと《お子さまランチ》頼んどいて文句つけますかあなたは。それなんか違ってませんかお母さん。

 もっぱら親の注文した和食セットなどを取り分けて食べていました。けれども大きくなるにつれ、取り分けての食事では足りず、と言って2人分頼むと多すぎるということになって困りました。

 ああやばいツッコミどころが多すぎて、一文ごとに揚げ足とりたくなってくるよ(笑)。わざわざファミレスに行き、お子さま系はイヤなので親の和食セットを食べる幼児というのも不思議だが、まあいいや。でもねでもね、そうすると親も和食食べたいんだよね。子供も和食食べたいんだよね。だったらなぜファミレスに行く?  というか和風ファミレスとかあるんじゃないの? 知らんけどさ。なんか、あるじゃん道路際に。和風建築を模したようなレストランっぽいとこ。あれ、ファミレスじゃないの? ああいうとこだったら子供向けメニューもあるんじゃないの? 俺、行ったことないんでわかんないんだけどさ、そんな気、するんですけど。

 大人と同じ和食セットで量は半分、定価の7割ほどで注文できれば本当に助かるのに、と何度思ったことか。

 ふ・ざ・け・ん・な。おじさん怒っちゃうぞ。こんなの読んだら、昭島のシェフがブチ切れるのもよくわかるよ。悪いがはっきり言わせてもらうと、このさいたま市のデザイナー(名前で検索したらヒットしちまったよ、とほほ……。なんかご夫婦でゲージツ活動をしてらっしゃるようです。ああさらにブログまでみつけてしまった)は馬鹿だ。自分ですることやってから文句言え(この場合は、和風な食べ物が好きな息子がいるんだったら、まず普通のファミレスに行く前にすることあんだろ、ってことです。実際にはそうしてたかもしれないが、“私にも一言いわせてちょうだい!”とばかりにそのへん省略しちゃったっていうなら同じこと)。さらに、量を減らして7割にしろという暴言。
 なんなんだこの馬鹿さ加減は。自分でも気づいていないのだろうけれど。朝日新聞も馬鹿を晒すという遊びをおぼえたのか?
 自分がなにを要求しているのか、わかってるのかなあ。たとえば映画館に行って、「うちの子は長い映画だと途中で飽きて寝ちゃうし、あまり戦闘シーンとか見せたくないんで、そういう場面を削除して半分ぐらいにした映画を見せてください。料金7がけで」といっているようなもんだ。本屋行って、「うちの子がモノゴトをよく考えられるように、この名探偵ホームズシリーズ、全部途中まででいいです。解決篇はじぶんで考えさせますので。だから定価の7割で売ってください」といってるようなものだ。違うか?
 この人、ハーフサイズを作れば(もちろん料金は7割、ってことなんだろうな。その数字の根拠はなんなんだ)、老人や病人も助かる、とこじつけてまとめているが、こういうのを“とってつけたような”というんだろうなあ。“あら、和食和食言いすぎたかしら、洋食のことも書いといたほうがいいかしら。そうだわお年寄りなんかもいたわねそういえば病人もファミレスに来るわよね”と無理矢理くっつけてるよね、絶対(食事制限のある人がファミレスに行くかね?)。  なんかことごとく頭、悪いんだよなあ。

 この図々しさと視野の狭さはどこからくるんだろうとつくづく不思議に思うのである。大人用一人前より量が少ないんだから、安くしてくれて当然でしょ、という思い込み。冒頭のシェフの投稿を紹介しよう。彼女は、量が半分のものを作ることに問題はない。が、それを7割にするのは無理だと答えている。理由も明快だ。

 料理の価格は技術料と考えています。少量でも特に安くはしていません。毛髪の量で、散髪代が変わらないのと同じでしょう。
 価格には食材費、光熱費、人件費、家賃、宣伝費、改装費、花代、食器代が含まれています。テーブルの回転率も考えられているのです。

 ここまで平易に説明されても、きっと文句言うんだろうな、さいたまのデザイナーみたいな人は。「それはわかるけど、でもわたしは特別」とかって。バーに行って「あたしあんまりお酒強くないんでぇ、アルコール控えめのカクテル、さっぱりめのお願いします」とか頼み、アルコール少ないんだから1200円のカクテルが1000円ぐらいになればいいなあと思いつつ、さすがにそれは非常識だから口にはせず(そこはわかっているのに、なぜ少量メニューは7割でいいと思えるんだよ)、でも最終的に別の客がおごってくれたり、店の人が端数をサービスしてくれたりといったことが起こらないかと、つねに期待してるんだよな。虎視眈々とそういうカモが来ないかと狙っているんだよ。いや知らないよ、まったく知りませんよこのデザイナーさんのことは。でも俺のなかではそう決まった。
 一見いかにも“子供の(好みと胃袋の)ために”少量メニューがあったらいいな、っていってるように見えるが、実際のところはそうじゃないと俺には思える。これは単なる吝嗇だ。ケチだ。子供が一人前食べられないんだから一人前の金額を支払うのは「もったいない」ということだろう。残してしまう料理が「もったいない」のではない。

 K岡さん、子供が洋食嫌いなら(ほんとかねえ……)、洋食メインのファミレスに行くのはやめようよ。親も和食食べるならなおさらじゃん。和食の店をさがして、そっちで食事したらどう? どうしてもファミレスじゃないといけないの?
 そして、もし洋食でも和食でも、子供が食べきれそうにないと思うのであれば、ハーフポーションで頼んで、ちゃんと料金は一人前払いなさい。おとなでも「ハーフ・ポーションで」はアリなんですから。7割なんて馬鹿なことは誰もいいませんけどね。ファミレスがそうかどうかはしりませんが、食事というのは、エサを買って腹におさめる行為というだけじゃないんですな。料理を楽しみ、会話を楽しむものなんですよね。そのために料理人は研鑽しているわけです。  たしかにファミレスなんて、工場でつくったレトルトを、キッチンであたためているだけなのかもしれない。ということは、最初から半量のレトルトパックをつくり、それをメニューに載せれば手間はあまり変わらないのかもしれない。だったら、K岡さん、あなたがそれでどれだけ売り上げがあがるか、企業にどういうメリットがあるかをプレゼンして、経営者を動かさないとね。もしかしたらいつの日か、「すかいホストだけのお子さまメニュー始めました。あらゆるメニューが半量にできます」みたいなことを始めてくれるかもしれない。可能性うすいと思うけど。
 偏見のあまりひどいことを書いているかなあ。

 などとうじうじ思っていたら、5/13付にこんな投書も。

食べ残したら
持ち帰ろうよ


資産運用プランナー S藤☆彦
(新潟県長岡市 46歳)

 シニアランチや少量メニューの要望が本欄をにぎわせています(4月25日、29日、5月9日)。私は食べ残しは持ち帰るのがよいと思います。年齢や体調により食べられる量が違うからです。

 えー、4/25にもあったの? 4/25と4/29のは、図書館にでも行かないと読めないや。なんかくやしいな。まあいいか、どうでもいいようなことだろうしな、きっと。
 で、この資産運用プランナーは以前ファストフードで働いておったそうで、余ったら持ち帰ればという、毒にも薬にもならないつまらんご意見(笑)。もー、好きにしてくれえ。

(さいたまのデザイナーさんのステキ度 ★★★★★)

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(2005.5.19)

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