《乳母車》という言葉はもう死語になってしまったんでしょうか。新聞・雑誌などでも《ベビーカー》と書くのが一般的になってしまったんでしょうか。乳母車なら3字、ベビーカーより2字も節約できるのに……。
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今回は香ばしいぞ。「朝日新聞」(2004年5月13日朝刊/東京版)の「声」欄だ。ステキだぞ。
ベビーカーで
バスに乗せて
主婦 ○○○△△△
(川崎市 32歳)
32歳のステキママMは、1歳9カ月の長男を乳母車に乗せ4カ月の次男を抱いてバスに乗ろうとする。心ないバスの運転手は「乳母車はたたんでください!」というのだが、Mはどうしても納得できない。だってだって……。
「ベビーカーから降ろしてしまうと、車内で立ったり一人で座席に座ったりすることができません。私が抱けばいいのでしょうが次男を抱いているもので……」
しかし冷酷な運転手は規則だからの一点張りで、結局Mはバスに乗れなかったのであった。
……えーと……もしもし? なんちゅうかあの、東京版の部数がどれくらいなのか知りませんが……こんな話載せてどうしようっていうのか。どこかのいじわるなウェブに取り上げられて馬鹿にされたりしたらどうするのか。そんな心配しなくていいか。
Mちゃんは、
中には事情を説明すればベビーカーごと乗せてくださる運転手さんもいます。
っていうんだけど、規則を曲げちゃう運転手がいたらそのほうがイヤだけどな俺は。
だけどMちゃんはひどい目に遭ったという意識が強すぎて文章もちょっとめちゃくちゃだ。「先日」って書いてあるけど、きっとその「当日」に書いたんじゃなかろうか。
いちおう彼女としても《バスや電車内でベビーカーをたたんで乗ることが場所も取らず安全》ということは認めている(じゃあ安全より利便を取るのかあんたは、といいたくなったりもするが)。でもやっぱり子供をベビーカーに乗せたまま乗車したいわけです、Mちゃんは。
じゃあタクシーで行けばいいじゃん。そう思うんだけど、ダメなんだそうです。
タクシーを使うのも手ですが、毎回毎回2千円、3千円とかかっていては我が家はやっていけません。
やっていけないのか。そうか。かわいそうにな……。でも、区役所に行く用事なんてそんなにしょっちゅうあるのかという気もするんだけど。
じゃあさ、ダンナに行ってもらうっていうのはどうかな。午前中休んで、通勤の途中に寄ってもらえばいいじゃん。ダメなのかな。でもほら、やっぱり家族の用事なら夫婦協力しあってってことで。そんなことしてくれないダンナなんだったら……まず夫婦間の話し合いからはじめたほうがいいような。
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それもだめだっていうならね奥さん、上の子がしっかり立ってられるようになるまで、第二子の制作はやめといたほうがよかったんじゃないかしらね。
どうですか。
でも今回のことで、バスに乗ってはいけないような気がしてめいっています。
子育てにやさしくない社会、ってことを訴えたいのかもしれませんが、なんか勘違いしてるように見えてなりませんぞ。
(ステキ度 ★★★★★)
(2004.5.15)
で、続報です。きましたよ、5月17日朝日朝刊。新潟県の語学教師さん。
バスの中では
おんぶが安全
語学教師 ○○△△子
(新潟県柏崎市 44歳)
ドイツに住んでたことがあるということで、
「おんぶ」にしてはいかがでしょう。
と一刀両断。わはは、そうですよねー。
ドイツではバス乗車可で固定できる乳母車用スペースありだそうです。へえー。
まあおんぶは《赤ちゃんの重みで肩が凝ることはありますが、互いに頼り頼られるかけがえのない存在であることを体感でき》るからいい、という意見はちょっとおとぎ話っぽくてアレですけど、彼女の住む雪国ではおんぶが主流だよとおっしゃっている。そもそも移動は自家用車なんじゃねえのという気もするが……。
そもそも乳母車って、電車やバスなどの段差を前提とした交通手段にはそぐわないんじゃないか? そこんとこどうですかね。ワタクシの幼少のみぎりは……って思い出そうとしても思い出せるわきゃない。妹もいましたが、電車で親戚の家に行くときなんかは母親がおんぶしてたような記憶がうっすらと残っています。
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おんぶは人気ないのかねえ。ほんと見かけないもんな。生後4カ月ぐらいだとどうなんでしょ。おんぶのほうが楽そうにも思えるよ。なーんて簡単にいうと怒られるんだろうけど。
勝手ついでにいろいろ想像してみるが、もしかしておんぶはかっこわるいとか、そういうくだらない理由だったりする? まさか、いくらなんでも、なあ。
検索してみる。「北極しろくま堂」なんてえお店もあって、いろんな種類があるのにおどろき。わざわざ“昔ながらのおんぶひも”という商品まであるんだもの。《家の中では「ばってんおんぶ」でもいいという方に》とあるぐらいだから、もうあんまりポピュラーじゃないってことか。むしろリバイバルで復古主義で、「○子さんアァタ××家の嫁になったからにはこのおぶい紐でおんぶしなきゃダメざます!」と嫁姑バトルが繰り広げられてるのかもしれぬ。おそろしやおそろしや。
アメリカンなベビースリング(わっか状態にしてつかう布。生まれたて時代は胸の前で横抱きにし、首が座ってきたら縦抱きにして親の横腹というか腰のところに子供がまたがってる感じ)なんかもあるんだな。日本では見たことないが。って脱線しすぎですね。
ばってんおんぶ、というのも初耳だ。紐が胸の前でX字型になるからか。家の中ならいいけど外はダメなわけですか。胸が強調されるからなあ。しょうがないのか。でもさ、独身時代は寄せて上げて思いっきり強調してたくせに〜、と小声でいってみたくなるんですけど(笑)。
どんな移動手段であれ、安全第一だと思いますんで、Mさんはよく検討したほうがいいと思います。とりあえず乳母車でかかと直撃はやめてください。痛いから。痛い、って声出して思わず振り返ったら、まるで俺のほうが悪いことしたみたいな目でにらむのもやめてくれ。頼む。
(2004.5.17)
さらなる反論が! もう飽きたけど。5月21日朝日朝刊。
ベビーカーの
よさも認めて
主婦 □□☆子
(横浜市 38歳)
ドイツなんかなによ、という雰囲気です。
私は1人目をフランスで出産しましたが、大都市のパリでもベビーカーにはみんな寛容でした。
はあ。もうなんだか海外での出産・子育て自慢みたいになってきました。柏崎市の人がドイツでは!っていっちゃたもんだから、なによパリではね!と対抗心が燃え上がってしまったんだろうなあ、と意地悪なことを考えてみる。アホらし。つぎはアフリカあたりで産みました、サバンナでは抱っこが一番安全です、みたいな投稿が載るといいなあ。
それはさておき、この人もちょっとピントが……。フランスではベビーカーをたたまずに乗車できたと(そんなんフランスの勝手やん)、周囲の乗客が必ず手伝ってくれたと。必ずありますな、日本人はつめたいっちゅう意見が。そしてさらに、
込んだ車内でベビーカーをたたまずにおくというのなら非難もされるでしょうが、そうでないのなら、バス会社や運転手さんはもっと臨機応変に対処して頂けないでしょうか。まだ首のすわらない赤ん坊を連れて外出する時など、おんぶよりベビーカーのようが安全な場合もあります。
ちょっと待てや。
最初の投稿には《ベビーカーから降ろしてしまうと、車内で立ったり一人で座席に座ったりすることができません。》とあるぞ。車内での立ったり座ったりに支障を来すから降ろしたくないってってことは、たたまないんじゃん。《非難もされるでしょうが》って、じゃあちゃんと非難しなさいって。ズルいなあ。《そうでないのなら》なんていっちゃって、嘘の仮定で論じたって意味ないですよ。少なくとも川崎のMちゃんの例には当てはまらないんだし、ベビーカー社会学として独立して論ずればよろし。
横浜市営バスではベビーカーが許されるようになったんだけども、運転手が固定しなければならないんで乗客のなかはいらいらして文句をいう人もいるんだそうで。
ベビーカーを使う側にもいろいろと配慮が必要だと思いますが、外出にはおんぶや抱っこで、というのでは、あまりにもベビーカー利用者の気をくじくものだと思います。
と締めくくっています。めんどくさいんで乳母車の是非には踏み込みたくないんですが、なんかなあ、ワガママだよなあ。タクシーも使いたくない、抱っこやおんぶもイヤ(《おんぶよりベビーカーのようが安全な場合》もそりゃあるでしょうけど、たぶん逆もあるわけで、そんなこといいだしたらバスよりもタクシーのほうが効率がよくて安全な場合もありそうだし飛行機より新幹線のほうが安全で早い場合もあるでしょう。つまり意味のない記述だ)、規則によってたたまないとダメな場合は運転手に臨機応変をもとめ(なんかバスの運転手さんはいろいろ要求されて大変だなあ。アナウンスでも気の利いたことのひとつも言わなきゃいけないし。でも公共交通手段があんまり適当だと個人的にはイヤだなあ)、たたまなくていい場合の乗客の舌打ちには配慮を求める。たぶんこういうひとって、朝の殺人的ラッシュでもベビーカーで乗り込んで来そうな気がする(笑)。
で《ベビーカーを使う側》の《配慮》がどういうものなのかは書かれていないんですよね。配慮しろ配慮しろばっかりで。
外国ではどうだとか、乳母車以外の方法がどうだとか、そんなことは実はどうでもいいんですけどね(乳幼児の親が考えればいいことだ)。あんまり配慮を要求してばかりってのもどうよと思ったりしたのでした。黙って我慢してると損なのかねえ。やれやれ。
(2004.5.23)
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