0.3%の雑文[004]
断じて断食  ――ステキな主張1

 読者のみなさんというのは、えてしてわがままです。新聞雑誌を問わず、主張なさいます。メディアにたいする要望や苦情のたぐいならまだいいんですが、いわゆる《読者投稿欄》というものになると、みなさん声高に主張されます。言葉遣いは控えめであっても、やたら主張なさいます。
 そういう《主張》のなかからステキなものを紹介したいというのがこのシリーズの趣旨です。

 記念すべき第一発は「朝日新聞」(2003年3月3日朝刊/東京版)の読者投稿欄、いわゆる「声」欄で発見しました。まったく、月曜の朝からやってくれます。
 一瞬目を疑いましたよ。タイトルは「戦争の回避を断食して祈る」。記者がつけたのかね、このタイトルは。変です。「断食して戦争の回避を祈る」じゃいかんのか。1行の文字数の問題なのかもしれんが、ちょっと頭悪そう。意図的なのならいいけどさ。
 しかしこれ、きっと全文転載はまずいんだろうな。新聞ってそういうとこ、うるさそうだしな。投稿者のプライバシーは軽んじてるくせにな。
 というわけで、適宜抜粋引用。

戦争の回避を
断食して祈る

主婦 ○○△△子
(千葉県××市 41歳)

 投稿者は41歳。ええ、41歳です。瞳キラキラの女子中学生ではありません。そこ、要注意ね。
 彼女はクリスチャンらしいです。《私の教会の牧師が》戦争しないでちょんまげ、と《断食祈祷をし》たそうです。で、あたしもいろいろ考えた、と。
 その結果――。

私たちも食事を減らしたり、おやつやお酒をやめたりしながら祈っています。

 …………。Oh my Godとかいえばいいんでしょうか。ここ笑うところなんでしょうか。笑っていいんだよね?
 途方もなくバカです。ステキといってもいい。
 全体的に文章がなんか怪しい(《今まさに》とか《今この時》とか、イマがすきなのね。最後の一文も意味不明)んだけど、しかしそんなことはこの際どうでもいい。
小さなことでしかないかもしれ》ないが《祈らずにはいられ》ない彼女は、食事を減らして断食だとのたまうんですよ、奥さん! ダイエットかよっ、と何百万人の読者がツッコミをいれたことでしょう。こんなステキな投稿を採用した担当者に乾杯。
 だいたい、そういうのは断食とは言わないでしょう。漢字読めるかな。断食って、食を断つって書くんだよ。もしかしてこの人、日の出てるうちは食べないぞ、とかそういうことをしてるのかしら。ラマダンかよ。でもそれ宗教ちがうし。
 マジで自分のやってることが「断食」なんだと思っているとしたら、彼女が通っている教会の(《私の教会》っていうのもスゴいな)牧師さんにも失礼だと思います。

 すごいよ41歳、すごいよ担当者。すごいよタイトル。なんつったってタイトルが「断食して祈る」だもん。看板に偽りありすぎ。断食してないもん。こういうのを偽善というんだろうな。いい見本だ。
 しかも本人に自覚なし。戦争に賛成するのも反対するのも自由。だけど、なにもしないなら黙ってればいいと思います。今日のお昼はいつもは2つ食べる菓子パンを1個だけにしましょう3時のおやつも抜きにしましょうビール1缶の晩酌もやめましょう、ああこんなに平和を祈って行動しているあたしってステキ誰かに褒めてもらわなきゃ発表しなきゃ世間に訴えかけなきゃっ!
 そして最後に彼女はやっぱり祈るのだ。その1、日本が憲法にそった独自の外交をすること。その2、テロ攻撃がなくなること。その3、《人間が平和のための道具として共に用いられ》ること。平和のための道具、って……。言葉の選び方がテキトーというかメルヘンというかバカというか。
 41歳の書く文章にしてはステキすぎるじゃねえかまったくよぉ。

(ステキ度 ★★★★☆)

(2003.3.10)

[Home][Weblog][Writings][Links][About]